ERP(基幹システム)とは、ヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源を一元管理する仕組みで、製造業では受発注・在庫・原価・会計の中核を担います。本記事では、ERPを「モノとカネの”数”の管理」と捉え、技術情報を扱うPLMとの棲み分けを明確にします。とくに悩みどころとなる「部品表(BOM)はERPとPLMのどちらが持つべきか」という論点にも、中立の立場から踏み込みます。
1. ERPとは何か
ERPとは、経営における重要資源である、ヒト・モノ・カネ・情報を一元管理する基幹システムです。製造業では受発注や在庫、原価、生産管理、会計が中心領域になります。
ERPにおいて最も重要な点は全体把握です。営業から生産計画、調達、製造、物流のサプライチェーン側の部門全体をつなぎ、財務会計部門も紐づけることで、製品の原価計算や会社全体の売上・利益予想など経営判断に必要なデータを引き出すことができます。ERPのデータを見ることで、会社が意図した方向に向かっているかを確認できます。会社全体を把握するERPがないと、行き当たりばったりの経営になってしまいます。
製造を担うシステムとしてMESがありますが、MESが製造部門における計画を実績に変える実行系であるのに対して、ERPは製造も含む会社全体の情報を管理する計画系にあたります。PLMも計画系と言われますが、こちらはエンジニアリングチェーン側の計画系であり、ERPはサプライチェーン側の計画系です。それぞれ役割が違います(5つのシステムの位置づけは「製造業のシステム全体地図」で解説しています)。
2. 製造業でERPが担う主な領域
ERPの担う領域のうち、代表的なものを説明します。
受発注・販売管理
製造業において、受注は製造の起点です。どの製品をいつまでに何個作らないといけないのかが決まるので、受注内容に合わせて生産計画を立て、製造・納品へと円滑につなげていかなくてはいけません。短納期・高品質を求められる傾向が強まっている中で、ERPを活用すれば受注から納品までを効率的に進めることができます。
また、ERPでは生産計画や製造実績を管理しているので、製造現場の生産余力も見積もることができます。受注営業部門としては急な依頼に対応しなければならない場合もあり、いつまでなら対応できそうかをある程度把握できるのは非常にありがたいことです。社内に無理をさせすぎず、顧客の依頼にできる限り応えようと調整できるのは、企業がチャンスを逃さないためにも重要です。
在庫管理
ERPが核とする「モノ」にあたるのが、部品・仕掛品・製品です。ERPはこれらの”数”を把握・管理します。受注・生産計画に基づく必要部品の計算(所要量計算)の結果と、部品在庫の状況に乖離があれば、調達部門が発注をかけて欠品を防ぎます。また、完成した製品の在庫が過剰にダブついている場合には、営業部門で値引きなどの戦略を立てることにつなげられます。モノの”数”をリアルタイムに捉えられることが、欠品と過剰在庫の両方を防ぐ土台になります。
原価管理
ERPではサプライチェーン側の受注から納品までの情報を一元管理しているので、各部品の調達費や移動にかかる燃料費、製造工数から、原価(人件費や光熱費などを含む)を把握することができます。製品ごとに損益分岐点となる金額をおおよそ予測できるので、いくらで販売すれば利益が出るのかを営業部門でも活用できます。もちろん製品の原価は固定ではなく、時期や社会情勢によって変動するので、ERPを通して定期的に原価を把握することが重要です。
なお、「設計段階では原価が見えにくい」という課題もありますが、これはERP単体の話にとどまらないため、別記事「原価が設計段階で見えない」で詳しく解説しています。
生産計画
受注・調達の状況に応じて、どの製品をいつまでに何個作る必要があるのかを計画します。ERPを通じて現場の状況もある程度把握できるので、いつまでに何個作れそうかを見通せます。受注内容によっては、他の生産計画まで調整しなければならないものも出てきますが、どの製品なら納期に余裕があるかといった情報もまとまっているので、現場への製造順番の調整もしやすくなります。
現場との連携という意味では、システム連携の観点も重要です。計画系のERPから実行系のMESに対して、計画情報を共有しなければなりません。ERP上でMESの求めるデータ型に合わせて情報を整理しておけば、生産計画をスムーズに共有できます(MES側の詳細は「MESとは」で解説しています)。
3. ERP(計画・数)とPLM(技術情報)の棲み分け
ERPとPLMは、製品データを扱うという点では同じですが、製品のどの側面を捉えて管理しているかが違います。PLMは「どんな形状の部品を組み合わせれば製品を実現できるか」という設計の視点に立つのに対し、ERPは「どんな部品を調達・準備し、いつまでに・いくらで完成させるか」という現場・経営の視点に立ちます。PLMは技術情報を、ERPはヒト・モノ・カネを扱う、と簡略的に説明されることもあります。
当然、同じ製品のデータなので、両者は連携します。PLMの技術情報(BOM)がERPに引き継がれ、実際に調達すべき部品を計算したり、原価計算の土台になったりします(PLM側の詳細は「PLMとは」で解説しています)。
4. BOMはERPとPLMのどちらが持つのか
PLMとERPの連携で必ず議論になるのが、BOMをどの形で連携するか、特に製造部品表(M-BOM)をどちらで作るかです。
概念上は、設計情報はPLM、調達や在庫など実際の製造に関わる情報はERP、という棲み分けなので、PLMで設計部品表(E-BOM)を、ERPで製造部品表(M-BOM)を管理する、というのが一応の回答になります。ただし、システム間の連携が一般的になっている今、どこでBOMを管理するかに絶対の正解はありません。PLM・ERPの導入時に、社内のこれまでの慣習や部門間の分担に基づいて、BOMの持ち方を決めるのがよいでしょう。
具体的には、次のような判断になります。ERP側にM-BOMを寄せる場合は、ERPがE-BOMを受け入れ、そこにERPの持つ現場情報を足してM-BOMを作れるようにします。現場情報はもともとERP側に豊富にあるため、比較的素直な形です。一方でPLM側にM-BOMを寄せる場合は、PLMだけでM-BOMを完成させるのは難しいという壁があります。M-BOMの作成にはERPが持つ現場情報が必要になるため、PLMにERPの情報を取り込んで完成させるのか、それとも未完成のM-BOMをERPに渡して仕上げるのか、を設計しておく必要があります(BOMの種類の違いは「BOMとは」で解説しています)。
5. ERP導入で何が変わるのか(Before / After)
ERP導入で変わるポイントを、部門内・部門間・経営という3つの視点で説明します。
部門内
各部門で管理しなければならない台帳や帳票はたくさんあります。社外からも発注書や納品書、請求書がバラバラと届き、管理すべき情報は山のようにあります。紙のものもあればデータのものもあり、統一した管理ルールがないと、後から情報を整理したり探したりするのはほぼ不可能に近くなります。ERP導入により管理方法が標準化され、1つのプラットフォームにまとめられるので、検索性や流用性が増します。何がどこにあるのかが部署内の共通認識となり、情報へのアクセスが向上します。
部門間
部門間でデータをやりとりする際に、都度違うフォーマットで連携されると仕事は捗りません。他部門の暗黙の了解がデータに含まれていることもあり、解読するためにその部門のメンバーへ追加で質問しなければならないこともあります。ERP導入で部門間のデータ連携がルール化されると、双方の部署にとって都合がよく、齟齬も格段に減るため、ストレスの減少につながります。
経営
製造業において拠点は一つとは限りません。複数拠点になると、会社の現状を把握することはさらに難しくなります。現場には現れにくい問題(売上の減少や設備稼働率の低下など)はその典型で、気がついた時には手遅れということもあります。ERP導入によりモノ・カネ全体の流れが捉えられるようになるので、リアルタイムに近いデータを把握できます。リスクのある製品の製造にトライできるだけの企業状況なのか、といった経営判断に必要な情報も揃います。ただし、ERPはあくまで判断材料を揃える仕組みであり、それを正しく分析・解釈する経営チームがあって初めて活きる、という点は押さえておく必要があります。
6. なぜ今ERPなのか
ERPの導入が進んでいる背景には、いくつかの理由があります。
経営判断の高速化
SNSなどの普及により世の中に情報が溢れ、好まれる製品のトレンドは日々変化します。製造する立場としても、トレンドを追いかけつつ新しい製品を開発する必要性が高まっています。ゆっくり製品の方向性を考えていてはトレンドに置いていかれるため、素早い経営判断と企画〜製造力が求められるようになってきています。社内の情報整備や情報伝達に時間を取られていては勝機を逃しかねません。ERPを通じて経営判断に必要な情報を素早く集め、適切な判断を下せる状況を整えることが、大きなステップになります。
グローバル化
製造拠点が多様化し、国内にとどまらず海外に拠点を持つ企業も増えてきました。製造コストを抑えられる可能性が高いというメリットがある一方で、管理面での難しさが出てくるのがデメリットです。多言語・多通貨・多市場に対応して製造を行わなければなりません。また、その国独自の商習慣もあるので、期待している報告が上がってこないといった問題も起こり得ます。ERPを通して拠点の状況を丸ごと把握できるようにしておくことは、本部の経営陣にとって一つの安心材料になりますし、海外拠点に指示を出すときの判断材料にもなります。
“つながる基幹”としての役割
ERPに限らず、製造業ではPLMやMESなどのシステム導入が進んでいます。そこで起こるのが「いろいろなシステムを導入したが、どれを基幹システムに位置づけるか」という問題です。ERPはモノ・カネを中心に扱うため、多くの部門と関わりがあります。多くの部門で利用されることは基幹システムの一つの要件になるので、ERPを基幹システムと位置づけ、PLMやMESなどと連携させる、という事例が多く見られます。
なお、中堅・中小企業では、最初から統合型のERPを入れるのではなく、販売管理・会計・生産管理といった個別ソフトを使い分けている状態から、痛みの大きい領域を起点に段階的に統合していく進め方も現実的な選択肢です。「ERPを入れるか入れないか」の二択ではなく、「どこまでを一つにつなぐか」という度合いの問題として捉えると、自社に合った落としどころを見つけやすくなります。
まとめ/関連記事
ERPは、モノとカネの”数”を軸に、受発注から在庫・原価・会計までを一元管理し、会社全体の状態を見えるようにする基幹システムです。製品の技術情報を扱うPLM、製造実行を担うMESと連携し、サプライチェーン側の計画系として、経営判断の土台を支えます。
- 製品の技術情報の一元管理 →「PLMとは」
- 製造実行の管理 →「MESとは」
- BOMの種類と違い →「BOM(部品表)とは」
- 5システムの俯瞰 →「製造業のシステム全体地図」
- 原価が設計段階で見えない課題 →「原価が設計段階で見えない」