製品の原価は、一般に「その8割が設計段階で決まる」と言われます。それなのに、原価が見えるのは見積もりや量産が始まってから——そんな「後出し」の構造に悩んでいないでしょうか。本記事では、原価が設計段階で見えない理由を、部品表(BOM)と原価情報のつながりという観点から解き明かし、どうすれば早期に原価を捉えられるのかを中立に整理します。
1. 原価をめぐってこんなことが起きていませんか
製品を設計するときに気にしなければいけないのは、品質とコストです。品質については、図面やシミュレーションなどで視覚的にある程度確認することができます。一方で、コストを視覚的に確認することは困難です。設計を始める段階でコスト目標を立てるものの、設計中は「いくらコストがかかりそうなのか」がわからないまま進めるしかない、ということが起こります。こうして設計段階で目標原価を設定し、その達成を作り込んでいく活動は「原価企画」と呼ばれ、多くの製造業で重要なテーマになっています。
やっかいなのは、原価の大部分は設計段階で決まってしまう、という点です。どんな部品を使い、どんな構造にするかを決めるのは設計です。つまり、原価を左右する意思決定はほぼ設計時点で終わっているのに、その金額がはっきり見えるのは、見積もりや調達、量産が動き出した後になります。「決まる」のは早く、「見える」のは遅い。このズレが、原価をめぐる問題の根っこにあります。
たとえば、設計が終わってから見積もりを取ったら、想定より高くて設計を見直した、という経験がある方もいるでしょう。あるいは、量産に入ってから総額として原価が効いてくることもあります。単価としては数円の差でも、量産で数万個を作れば、その差は数百万円にもなります。設計時点で「機能が同じなら安いほうで十分」と考えて選んだ部品が、量産数量を掛けた瞬間に、大きな差として跳ね返ってくるのです。
こうした「後出し」を避けるために、似た製品の過去原価を参照したいと思っても、その情報がどこにあるのかわからない、という別の問題にも直面します。結局、設計・見積もり・再設計・再見積もりと、何度も部門間でやりとりを繰り返すことになり、効率が上がりません。
2. なぜ原価は「設計段階で見えない」のか(原因の分解)
原価が設計段階で見えないのには、いくつかの構造的な原因があります。代表的な4つを見ていきます。
原因1:原価が「決まる」時点と「見える」時点がズレている
1章でも触れたとおり、原価を左右する意思決定の大部分は、設計段階で終わっています。どんな部品を使い、どんな構造にし、どんな工程で作るか——これらを決めるのは設計であり、その時点で原価はほぼ確定しています。
しかし、その原価が金額としてはっきり見えるのは、見積もり・調達・製造が動き出した後です。つまり、原価が「決まる」タイミングと、原価が「見える」タイミングのあいだに、大きな時間差があります。決まるのは早く、見えるのは遅い。この時間差があるからこそ、設計者は「見えないまま決める」ことを強いられ、後になって「決めた原価」と「目標」のズレが発覚するのです。
原因2:BOMと原価情報がつながっていない
そもそも原価は、どのように積み上がるのでしょうか。おおまかには、BOM(どの部品をいくつ使うかという設計情報)と、各部品の単価(調達情報)の掛け算で決まります。部品ごとに「単価 × 数量」を計算し、それを積み上げれば、製品の材料費が見えてきます。厳密には加工費や組立の工数などもありますが、まず土台になるのは材料費です。
問題は、この掛け算に必要な2つの情報が、別々の場所にあることです。BOMは設計部門に、単価は調達購買部門にあります。設計と調達が分断していると、設計者は自分の手元にあるBOMに、単価を掛け合わせることができません。原価を積算するための材料が揃わないので、設計段階でのコスト把握が極めて困難になるのです(BOMそのものについては「BOM(部品表)とは」で解説しています)。
原因3:単価情報が最新でない・散在している
仮に単価を参照できたとしても、その単価が正確でなければ、試算は当てになりません。部品の単価は、為替の変動、原材料の高騰、発注数量による割引などで、常に動いています。
こうした最新の単価が一元管理されておらず、担当者の頭の中や個別のファイルに散在していると、設計者が試算に使う単価が古かったり、間違っていたりします。「昔は安かったはずの部品が、今は値上がりしている」ことに気づけないまま設計を進めてしまえば、後の見積もりで大きなズレとなって返ってきます。正確な原価試算には、最新の単価が正しく参照できることが前提になります。
原因4:過去製品の原価が資産として使えない
新しい製品の原価を設計段階でつかむ有力な方法の一つが、似た過去製品の原価を参照することです。ゼロから積算しなくても、類似品の実績があれば、そこからの差分で概算できます。
ところが、過去製品の原価データが、製品や部品と紐づけて残されていないと、この参照ができません。「あの製品のときはいくらだったか」を知りたくても、データがどこにあるのか探せない、あるいはそもそも記録されていない、という状態です。これは「図面・CADデータが探せない」で扱った、過去資産が活用できないという問題と根を同じくしています。せっかくの原価実績が、次の設計に活かされないまま埋もれてしまうのです。
3. まず自力でできること
設計段階で原価の対象が確定してから、いかに早く原価を計算し可視化するか。そのために自力でできることがいくつかありますので、見ていきましょう。
主要部品の単価表を整備し、定期更新する
まずは原価計算を行うためのデータ整備が必要です。主要部品の単価をまとめた単価表を用意し、必要な部門に保存場所を周知して、アクセス権限を整えます。すべての部品を網羅する必要はなく、部品の網羅率で8〜9割ほどカバーできていれば十分でしょう。もちろん、原価への影響が大きい高額な部品は、できるだけカバーしておきたいところです。
多くのメンバーにとって単価は参照できればよいので、編集権限まで付与する必要はありません。むしろ、誤って金額を更新されたり削除されたりすると大変なことになるので、編集権限を持つメンバーはしっかりと管理しましょう。逐一更新する必要はありませんが、ある程度のタイムリーさは必要なので、「毎月〇日に更新」など、定期的に更新される運用ルールを決めておくとよいでしょう。
過去製品の原価実績を、製品・部品単位で記録・参照できるようにする
過去製品の原価実績をまとめておくことも有効です。新たな製品を設計する際に参照することで、設計の前段階で原価のイメージを持てます。製品全体の原価だけでなく、部品単位での単価も記録しておくとよいでしょう。新しい製品と過去の類似品の原価を比較すると、金額が大きく違うことがあります。部品単位で比較できれば、原価差をより明確に把握でき、部門内や経営陣への説明、あるいは納入先(顧客)へ値上げをお願いする際の根拠にもなります。
設計段階で「概算原価をつける」プロセスをルール化する
単価は変動するので、原価を概算する際にどの単価を使うかをルール化することが重要です。好きに単価を選べると、都合の良い原価を作り上げることが可能になってしまいます。いつの、どんな計算に基づく単価を使うか(たとえば直近3か月の平均単価、あるいは最新の発注単価など)をあらかじめ決めておくことで、担当者によって原価がブレることを防げます。
また、原価は「概算でよい」と割り切ることも大切です。設計段階で1円単位の精度は必要ありません。目標原価に対して、桁やおおよその水準が合っているかがわかれば、大きな手戻りは十分に防げます。完璧な原価を出そうとして計算が重くなり、結局は負担が大きくて誰も試算しなくなる——これでは本末転倒です。まずは「ざっくりとでも、設計中に原価が見える」状態をつくることを優先しましょう。
自力でできることはありますが、部品数が多かったりすると、手作業やExcelでの試算には限界があります。単価が変わるたびに再計算しなければならないなど、負担が大きいのも事実です。だからこそ、こうした計算を自動で支える仕組みが必要になってきます。
4. 仕組み(システム)で解くとどう変わるか
原価が設計段階で見えない問題は、システムによって構造的に解消できます。2章で挙げた4つの原因が、それぞれどう変わるのかを見ていきましょう。
まず、設計中のBOMに部品の単価を紐づけることで、BOMを組んだそばから原価が自動で積み上がります。設計と調達の情報が1つにつながるので、手元のBOMに単価を掛け合わせられないという分断(原因2)が解消されます。部品を変えたり数量を変えたりすれば、原価表示もその場で変わります。
そして、部品の単価が変われば、その部品を使うすべての製品の原価に自動で反映されます。最新の単価が一元管理されるので、古い単価で試算してしまう問題(原因3)が起きません。為替や値上げの影響が、どの製品にどれだけ効くのかも、すぐに見えるようになります。
さらに、過去製品の原価が製品・部品に紐づいて蓄積されるので、類似品の原価を流用して、新製品の概算を素早く出せます(原因4)。過去の実績が、次の設計にそのまま活きるのです。
こうして、原価が「決まる」のと「見える」のが、ほぼ同時になります(原因1)。設計してBOMを組んだその瞬間に原価が見えるので、目標とのズレにその場で気づき、手戻りを防げます。これがまさに、原価を設計段階で「見る」ということです。
こうした仕組みの中心を担うのが、技術情報(BOM・設計データ)を管理するPLMです。ただし、原価の積算には調達側の単価情報が欠かせないため、単価・調達を管理するERPとの連携が前提になります。役割を分けて言えば、設計段階での原価の可視化はPLM側、確定した実績原価の集計はERP側、という関係です(それぞれの詳細は「PLMとは」「ERPとは」で解説しています)。設計段階で原価を先に見るというこの考え方は、下流の問題を上流で潰す「フロントローディング」の一例でもあります(この考え方は「設計・製造・購買で情報が分断している」でも紹介しています)。
5. まとめ:原価は「決まる前」に見る
原価が設計段階で見えない——その根っこには、原価が「決まる」時点と「見える」時点のズレ、そしてBOMと単価がつながっていないという分断があります。
大切なのは、発想を「決まってから集計する」から「決まる前に見る」へと切り替えることです。原価の大部分は設計で決まるのですから、その設計の最中に原価が見えていれば、手戻りは大きく減らせます。まずは単価表の整備や過去実績の記録といった運用から始め、手作業に限界を感じたら、BOMと単価をつなぐPLMとERPの連携で、原価を設計段階から見える化していく——この順序が現実的です。
- 部品表(BOM)の詳細 →「BOM(部品表)とは」
- 実績原価を集計する基幹システム →「ERPとは」
- 技術情報を一元管理する仕組み →「PLMとは」
- 自社に何が必要かを課題から逆引きする →「製造業システムの選び方」