PLM(製品ライフサイクル管理)とは、製品の技術情報を企画から設計・製造・保守まで一元的に管理する仕組みのことです。ただ、定義だけでは「何が変わるのか」が見えてきません。本記事では、PLMの核にある2つの機能——部品表(BOM)の一元管理と設計変更の管理——を軸に、PDMとの違いや、導入で現場の何が変わるのかを、特定の製品に寄らず整理します。
1. PLMとは何か
PLMとは、企画案・設計データ・BOM・変更履歴・製造情報・保守状況といった、1つの製品に関わる技術情報を、部門の垣根を越えて一元管理し共有する仕組みです。
ここで誤解されやすいのが、「PLMを入れると新しいデータを集めて管理しなければならない」という点です。実際にはそうではありません。たとえばBOM(部品表)は、PLMという概念が登場する以前から製造業で当たり前に使われてきました。PLMは、そうした既存のデータをゼロから作り直すものではなく、各部門が別々に抱えているデータをつなぎ直す仕組みである、というのが勘所です。
紙やExcelでBOMを管理・共有していると、部門間でのデータ連携や、更新作業の複雑さといった問題に必ず直面します。PLMは、まさにこの「つながっていない」状態を解消することに価値があります。
全体地図でいえば、PLMはエンジニアリングチェーン全体を守備範囲とする仕組みにあたります(5つのシステムの位置づけは「製造業のシステム全体地図」で解説しています)。
2. PLMの核① 部品表(BOM)の一元管理
PLMが扱う技術情報の中心にあるのが、部品表(BOM)です。BOMには、設計用のE-BOM、製造用のM-BOMなど部門ごとの種類があり、記載される内容も異なります(種類の詳細は「BOMとは」で解説しています)。PLMの価値は、これらをバラバラに持たせるのではなく、設計のE-BOMを起点に、各部門のBOMを連動させることにあります。他部門のBOMがPLM以外のシステム、たとえばERPやMESで管理されている場合には、API連携を活用してBOM間の連携を担保します。
E-BOMとM-BOMは簡単にはつながらない
ここで壁になるのが、E-BOMとM-BOMが同じ製品を指していても中身が一致しない、という点です。設計は「機能のまとまり」で、製造は「組み立てる順序」で部品を捉えるため、E-BOMをそのままM-BOMとして使うことはできず、両者をつなぐには「変換」が必要になります(ズレが生まれる理由と具体例は「BOMとは」で解説しています)。
システム連携の論点:BOMをどの形で渡すか
PLMは、社内で単独のシステムとして完結することはまずありません。とくにエンジニアリングチェーンとサプライチェーンが交わる製造の領域では、エンジニアリングチェーン側のPLMから、サプライチェーン側のERPやMESへBOMを連携するのが一般的です。この連携で論点になるのが、BOMをどの形で渡すかです。大きく2つの考え方があります。
ひとつは、E-BOMのまま連携するやり方です。比較的シンプルに渡せる一方で、製造や原価管理に必要な情報はERPやMES側で補い、M-BOMを作る前提になります。もうひとつは、E-BOMからM-BOMへ変換したうえで連携するやり方です。製造側が使いやすい形で渡せますが、前述のとおり変換は単純な置き換えではないため、どこで・どのルールで変換するかをPLM側で設計しておく必要があります。
どちらが正解かは、企業の体制や既存システムの運用状況によって変わります。PLMの導入では、この「BOMをどこで変換し、どの形で他システムに渡すか」を明確にしておくことが、後々の運用のしやすさを大きく左右します。
PLMがあると、BOM管理はどう変わるか
PLMがない場合、各部門が個別にBOMを抱え、設計変更が製造や調達に伝わらない、どれが最新版か分からない、といった分断が起こりがちです(この課題は「どのBOMが最新版かわからない」で詳しく扱います)。PLMは、設計のE-BOMを正の起点として各部門のBOMを連動させることで、変更を一箇所から波及させ、部門をまたいで「同じ製品を見ている」状態を保ちやすくします。
3. PLMの核② 設計変更(変更管理)
もう一つの核が、設計変更の管理です。設計変更は、1点の変更が複数の部品に波及するだけでなく、すでに他部門でBOMが作成されていれば、そのBOMにも影響が及びます。この影響範囲を手作業ですべて把握し、漏れなく更新するのは、非常に手間がかかり時間もかかります。1か所の確認漏れが、誤った部品での製造や手戻りにつながることも少なくありません。
PLMは、この変更の影響範囲を追跡し、どこに波及するのかを可視化したうえで、変更履歴とともに関係部門へ正しく伝えます。「誰が・いつ・なぜ変更したか」が記録として残るため、変更が正確に反映され、後から経緯もたどれるようになります。
なお、変更を承認・周知する具体的なプロセス(承認フローやステータス管理)は、次章「PLM導入で現場は何が変わるのか」で詳しく扱います。また、設計変更の運用(ECO/ECR)そのものにお悩みの場合は、別記事「設計変更(ECO/ECR)の管理が回らない」もあわせてご覧ください。
4. PLMとPDMの違い
PDMとは、設計部門で設計データを管理する仕組みのことです。類似図面検索や図面の版管理ができ、設計部門内での利用を想定している点がPLMとの大きな違いです。この設計部門で閉じたPDMを、企画や製造、保守部門まで広げたものがPLMだと言い換えることもできます。つまり、PLMはPDMの上位概念にあたる存在です。
PLMもBOM管理機能の中で各部品の図面や3D CADを取り込むため、PDMの機能を一定程度は内包します。ただしPDMには、類似図面検索の精度など、設計部門に最適化した独自の強みがあります。両者は対立するものではなく、設計に閉じた強みを持つPDMと、それを全工程に広げたPLM、という関係で捉えると整理しやすくなります(PDMの位置づけは「製造業のシステム全体地図」でも解説しています)。
5. PLM導入で現場は何が変わるのか(Before / After)
PLM導入で変わるポイントを、部門内と部門間という2つの視点で説明します。
部門内
PLMでは、ユーザーごとに作業権限を割り当てます。BOMを作れる社員、BOMに変更を加えられる社員、変更を承認できる社員、といった形で、基本的には社員のポジションに合わせて権限を与え、できる作業を厳格に管理します。これにより、部門内でBOMの作成から変更・更新・承認完了までのプロセスが確立されます。
さらに、各BOMのステータス(作成中、作業完了、承認待ち、承認完了など)を一目で確認できるため、プロセスのどこで作業が止まっているのかがわかります。承認プロセスにおける時間的なロスを減らすことにつながります。
また、過去のBOMや関連資料を「探す時間」も変わります。共有フォルダを掘り、前任者に聞き、それでも見つからず半日つぶれる——という探し物が、製品名や部品番号での検索に置き換わります。一回一回は小さな差ですが、設計・調達の日常業務で毎日発生する時間なので、積み重なると無視できない差になります。
部門間
PLMの権限設定によっては、他部門の一定以上のステータスのBOMを閲覧可能にできます。たとえば、調達部門の課長以上のメンバーは、設計部門で作成済みとなっているE-BOMを参照できる、といった設定です。PLMがない場合は設計部門にリクエストして共有してもらっていたものを、PLMでは設計部門側に共有作業をしてもらわずに閲覧できます。わざわざ依頼しなければならない手間と、手間をかけて申し訳ないという心苦しさが無くなることは、地味ですが大きな変化です。
また、BOMに変更・更新があり、承認権限を持つ社員が承認すると、関係部署すべてに自動で連絡がいくような設定も可能です。メールや電話で関係部署に個別連絡する必要がなくなり、変更から全体周知までの時間が大幅に短くなります。他部署から「BOMの変更連絡が遅い」とクレームが来ることもなくなります。
6. なぜ今PLMなのか
PLMの導入が広がっている背景には、いくつかの主要な理由があります。
リードタイム短縮
近年は海外企業、特に中国やベトナムといったアジア諸国の企業との競争が激化しています。コストをいかに削るかを工夫しなければならない中で、リードタイムの短縮は必ず対応すべき項目です。PLMを導入することで、エンジニアリングチェーン側での技術情報の管理・共有が円滑になり、時間のロスが減ります。他部門の作業完了や共有を待たずに情報へアクセスできるため、前もって準備を進められ、作業に伴う時間も減らせます。
技術承継
少子高齢社会の中で、製造業が置かれている人手の不安はますます増えています。今は50代・60代のメンバーが活躍しているため、喫緊の大きな問題を抱えていない企業も多い印象ですが、次世代メンバーの採用が滞り始めているという話も耳にするようになりました。「ものづくり白書」でも技術承継・人材確保は主要課題として毎年取り上げられており、これは個社ではなく業界全体の構造的な課題です(出典:ものづくり白書 第2章 第3節「ものづくり企業における人材確保及び定着並びに技能継承」(PDF))。
そうした中で、今の主要メンバーの技術をいかに蓄積して社内に残していくかが課題になっています。技術情報を管理するPLMであれば、各部品に対してメモや書類を紐づけておくことができます。製造工程における技術承継は実際に手を動かす中で身につけるべき点も多々ありますが、設計や調達におけるポイントやコツはデータとして蓄積し、後から見つけられるようにしておくことで、後任者が承継しやすくなります。
属人化解消
作業や管理、報告などが標準化されていないと、どうしても「〇〇さんしかできない作業」「□□さんしか知らない内容」といった属人化が起きてしまいます。その方が社内にいる間はまだよいのですが、退職や定年などで会社を離れてしまうと、誰もわからない・対応できない状況に陥ります。PLMは、導入・運用にあたってシステム要件を定義したうえで開発・管理していくため、属人的な業務を減らすことにつながります。もちろんPLM導入だけで属人化を完全に解消できるわけではありませんが、社内・部門内でのルール化と標準化が進むため、大きな一歩となります。
過去資産の再活用
PLMにデータが蓄積し始めると、さまざまな方法で過去の資産を活用できるようになります。たとえば、過去のBOMを流用して新たなBOMを作れるようになります。製品によっては、過去の製品と似た部品を使うことは珍しくありません。新たな製品用にBOMをゼロから作るのではなく、過去の類似品のBOMを複製し、流用できるデータは残して新たな部品だけを足す、といった使い方です。選択と操作だけで新たなBOMの大部分を流用でき、ゼロから作る手間を大きく減らせます。
PLMが(まだ)要らないケース
ここまでPLMの価値を説明してきましたが、すべての企業に今すぐPLMが必要かといえば、そうではありません。
取り扱う品目が少なく、設計変更の頻度も低いのであれば、PDMと運用ルールの整備だけで十分な場合があります。BOMの管理がExcelでもまだ破綻していない規模なら、先にファイルの版管理ルールと保管場所の一本化から始めるほうが、投資対効果は高いこともあります。
目安になるのは、本記事で挙げた「つながっていない痛み」——変更が伝わらない、最新版がわからない、部門間の依頼待ちで時間が溶ける——が、日常的に発生しているかどうかです。痛みが顕在化してからの検討でも、PLMは遅くありません。逆に、痛みが明確なのに我慢を続けると、その間の手戻りコストと、属人化の進行という形で代償を払い続けることになります。
まとめ/関連記事
PLMは、製品の技術情報を企画から保守まで一元管理し、部門の垣根を越えてつなぎ直す仕組みです。その核となるのが、部品表(BOM)の一元管理と、設計変更の管理という2つの機能です。そしてPLMの導入は、部門内・部門間のプロセスを標準化し、リードタイム短縮や技術承継、属人化の解消、過去資産の再活用といった、いまの製造業が抱える課題への打ち手にもなります。
- BOMの種類と違い →「BOM(部品表)とは」
- 5システムの俯瞰 →「製造業のシステム全体地図」
- 設計変更の運用 →「設計変更(ECO/ECR)の管理が回らない」
- BOMの版・分断の課題 →「どのBOMが最新版かわからない/部門ごとにBOMが分断している」
- 導入の進め方 →「PLM導入でよくある失敗パターンと進め方」
- 自社に必要か逆引き →「製造業システムの選び方」