PLM導入が失敗する理由は、製品の良し悪しよりも「進め方」にあることがほとんどです。本記事では、よくある失敗を原因別に分解します——要件を詰めすぎる、現場を巻き込まない、データ移行を軽視する、一度に全部やろうとする。そのうえで、小さく始めて確実に広げるスモールスタートの設計を解説します。製品を売る立場ではないからこそ書ける、導入の本音を整理します。
1. PLM導入の失敗は「製品」より「進め方」で決まる
自力での課題解決に限界を感じ、PLM導入の判断が済んだら、次は「どのPLMがいいか」を決める段階です。ただ、結論から言えば、日本国内である程度導入実績のあるPLMは、どれも良い製品です。
ではなぜ、PLM導入で失敗が起きるのでしょうか。その理由の大半は、システム選定ではなく導入プロセスにあります。良い製品を選んだからといって、課題解決の成功が保証されるわけではありません。選んだシステムをどう導入し、どう現場に落とし込むかを誤れば、失敗につながる可能性は非常に高くなります。逆に言えば、失敗例から学び、良い進め方をすれば、システム導入の効果を実感できるということです(そもそもどのシステムが必要かは「製造業システムの選び方」で解説しています)。
2. よくある失敗パターン
では、PLM導入の進め方において、どのような失敗があるのかを見ていきましょう。
失敗1:要件を詰めすぎる(あれもこれも)
PLMはエンジニアリングチェーン(設計〜製造準備にわたる技術情報のつながり)側をつなぐシステムなので、導入予定の企業にしてみれば、非常に期待が高くなります。「こんな課題も、あんな課題も解決できる」とベンダーに言われれば、プロが言うのだから自分たちにもその恩恵があるはずだと信じてしまうでしょう。
しかし、期待だけが膨らんだ状態で要求定義・要件定義が始まると、その期待が大きな足かせになります。導入当初から完璧なシステム運用を目指してしまい、要件定義が肥大化するのです。ここで知っておきたいのは、ベンダー側には「要件が増えるほど開発費用が大きくなる」という構造があることです。顧客の期待を積極的に抑える動機は、必ずしも働きません。だからこそ、要件の優先順位は発注側で管理する必要があります。
肥大化した要件定義は、過剰な機能、導入プロセスの複雑化、開発期間の長期化など、多くのリスクをもたらします。PLMの導入費用は、小規模でも数百万円から1,000万円規模になることが多く、決して小さな投資ではありません。経営状況の変化で大きなシステム投資ができなくなれば、開発が頓挫することにもなりかねません。まずは小規模でスタートすることをおすすめします。
失敗2:現場を巻き込まない
PLMに限らず、システム導入を主導するのは、経営陣や情報システム部門であることが多いものです。経営方針や効率化、事業拡大を常に考えている立場なので、社内の課題にも敏感です。良いシステムがあれば導入したいと考えるのは自然なことでしょう。
問題はその後です。経営陣や情報システム部門は、現場についてある程度の知識はあっても、細かい点まで理解が及んでいるとは限りません。つまり、PLMを実際に使う現場の意見を、必ずしも反映できるわけではないのです。導入プロセスが経営陣や情報システム部門だけで進んでしまうと、現場の実態を無視したシステムができあがり、せっかく導入したのに使われない、という結果になりがちです。
こうならないためにも、現場から少なくとも数名はPLM導入の検討メンバーに加え、決裁者と現場の橋渡し役を担ってもらうのがよいでしょう。
失敗3:データ移行を軽視する
PLMの導入プロセスが進むと、既存データとPLMをどう一体化するか、という壁にぶつかります。紙やExcelなどの既存データをいかにPLMへ移行するかが肝ですが、想像以上に既存データの量は多く、データ容量も重くなります。当然、PLMの要件に合わせてデータを整形したり、一部を改変したりしなければなりません。
時間も手間もかかる、かなり泥臭い作業ですが、時に軽視される作業でもあります。既存データを決まったフォーマットに落とし込むだけの単純作業に見えてしまうので、進んで取り組むメンバーが出てこず、結局ベンダーに任せがちです。しかし、ベンダーに任せると追加コストがかかりますし、データの整形や改変が自社の意向どおりになるとは限りません。移行コストを払ったのに、正確なデータ移行ができなかった——というのは、最も避けたい事態です。
すべての移行を自分たちで対応したほうがよい、とまでは言いません。ただ、重要と思われる部分の移行については、なるべく自分たちで対応するのがよいでしょう。
失敗4:一度に全部やろうとする
PLMは部門横断型のシステムなので、導入にあたっては多くの部門を巻き込むことになります。関わる人が多くなるほど、方向性をまとめるのに時間がかかります。部門間の思惑や、出世といった社内政治が絡んでくることもあるので、まとまった方向性が必ずしも良いものとは限りません。
特に、全部門・多くの機能を一度に導入する方向(いわゆる「ビッグバン導入」)でまとまってしまうと、失敗の兆候と言えます。導入直後から現場が混乱し、PLM導入の責任を部門間でなすりつけ合う——そんな事態になりかねません。
PLMは部門単独で導入を決められないという難しさがありますが、だからこそ経営陣や全体の統括責任者がしっかりとリーダーシップを発揮し、全部門が同じ課題を共有したうえで、初期の導入規模とリスクを天秤にかけて管理していくことが重要です。できれば「まずは設計部門だけ」といったスモールスタートが望ましいですが、企業によって置かれた状況は異なります。自社が取れる範囲のリスクを考慮した初期導入にまとめることが大切です。
失敗5:導入がゴールになる
PLMの初期導入プロセスは、短くても3か月、長ければ1年以上かかります。導入担当者からすれば、初期導入の完了は大きな達成感を感じるポイントでしょう。
しかし、PLMは導入して終わりではありません。むしろ、運用が始まってからが本番です。PLMを使う中で出てきたシステム課題を現場から吸い上げ、改善につなげていく——このPDCAをどれだけ回せるかで、システムの練度が変わってきます。PLMという概念は非常に優れていますが、自社に合うPLMを作り上げられるかどうかは、導入後の運用と定着にかかっています。導入後まで見据えて、コストや人員配置、役割分担を検討しておくことが重要です。
3. 失敗を裏返す:進め方の5原則
ここからは、PLM導入の失敗例から学び、成功する確率を少しでも高めるにはどうすればよいかを見ていきます。前章の5つの失敗と、それぞれ対応しています(見出しに対応する失敗の番号を添えています)。
原則1(↔失敗4):小さく始める(スモールスタート)
PLM導入への過剰な期待と逸る思いを抑え、できる限り小さく始めることをおすすめします。設計部門の1部門で、E-BOMの管理といったコア機能から始めるのがよいでしょう。
「PLMは部門横断型のシステムなのに、なぜ1部門だけで使い始めるのか」と疑問に思う方もいるかもしれません。理由は3つあります。1部門だけで使うことで、PLM導入に対するフィードバックがまとめやすく、PDCAサイクルを回しやすくなること。1部門でブラッシュアップした設定を、次のステップとして他部門の導入時に横展開でき、より効率的・効果的に導入を進められること。そして、仮に1部門の導入で問題を感じた時に軌道修正しやすいことです。要件の変更や、最悪PLM導入から撤退することになっても、傷口は相対的に小さくて済みます。
原則2(↔失敗2):現場を主役にする
PLM導入プロセスでは、数か月から1年以上にわたり、対象部門間でさまざまな意見交換や要件のすり合わせが行われます。この検討会や協議の場を、経営陣や情報システム部門からのトップダウン型にするのではなく、できる限り現場からのボトムアップ型にするのがよいでしょう。実際に使うメンバーを主役に据え、積極的にPLM導入に関わり活躍してもらうことで、実運用での現場の不満は格段に減ります。
もちろん、現場からの要求が過剰な場合には、経営陣や情報システム部門が期待値をコントロールする必要がありますし、コスト面でも経営全体を俯瞰した判断が求められます。PLM導入では、経営陣・情報システム部門・現場のどれもが欠けることなく、協力しながら進めることが重要です。
原則3(↔失敗3):データ移行を計画に組み込む
PLM導入では、既存データの移行もしっかりと工程に組み込むことが重要です。一元管理・標準化を進めるPLMでは、導入後の新規データは自動的に整えられますが、既存データは自分たちでPLMの要件定義に合わせて整備・移行する必要があります。
業歴や製造品目数によって移行の大変さは変わりますが、PLMを導入するほどの企業であれば、想像よりも大変になるものです。すべてを移行するのではなく、既存データを棚卸しし、移行するデータを見極め、クレンジングをします。紙のものはPDF化してデータ化するなどの対応も必要になります。PLMの検討段階から、データ移行に時間と、時に予算を確保しておくことが重要です。
原則4(↔失敗1):要件に優先順位をつける(完璧を目指さない)
PLM導入に限った話ではありませんが、システム化を進めるうえで、要件・要望に対して「必須/あると良い/不要」や「高/中/低」といった優先順位をつけることは、とても大切です。導入コストやステップに合わせて、どこまでの要件を今回の導入に入れるかを判断する軸になります。
また、PLMの場合は多数の部門が絡むので、連携部分への要求・要望について、自部門の優先順位と他部門の優先順位が一致するとは限りません。どちらの優先順位が良い・悪いという話ではなく、相手の部門を知る良い機会だと捉えて、しっかり協議したうえで認識を合わせ、優先順位をつけて取捨選択できるようにすることが重要です。完璧(ベスト)を目指すのではなく、まずはベターくらいを目指すとよいでしょう。
原則5(↔失敗5):運用・定着まで設計する
PLM導入をゴールとするのではなく、導入後の運用・定着を見据えて体制を整えることが重要です。特に導入後は現場が完全に主役になるので、現場からの声を吸い上げる体制を整える必要があります。
また、導入直後は「使い方がわからない」「エラーが出た」など、一時的に運用が詰まりがちです。現場のITリテラシー向上のための教育と、エラーの収集方法まで事前に設計しておくとよいでしょう。自社にフィットしたPLMにブラッシュアップするには、システム改善のサイクルをいかに多く回すかが鍵となります。
4. 導入の進め方(ステップの流れ)
ここからは、PLM導入のプロセスを時系列で見ていきましょう。各ステップは、前章の原則と対応しています。
ステップ①:課題と、自力での解決の限界を把握する
自社が抱えているエンジニアリングチェーン側の根本的な課題を把握し、できればまずは自力で課題の克服に取り組みます。そのうえで、PLMがその課題解決に最適であることも、あらためて確認しましょう。
ステップ②:要件を整理する(優先順位づけ)
課題を解決するための要件・要望を整理したうえで、優先順位をつけます(→原則4)。このとき、経営陣や情報システム部門だけで対応するのではなく、現場もしっかりと巻き込むことが重要です(→原則2)。
ステップ③:スモールスタートの範囲を決める
PLM導入が失敗するリスクを最小化するために、まずはなるべくスモールスタートとなるよう範囲を決めます(→原則1)。どこまで小規模にできるかは各社の事情によって異なりますが、コストなどのリスク管理を忘れずに進めます。
ステップ④:データ移行を準備する
既存データをどこまで、どのようにPLMへ移行するのかを検討し、実際の準備・移行作業を行います(→原則3)。既存データはかなりの量になるので、一定の時間と予算の確保をおすすめします。このステップを甘く見ることなく、時には外部サービス(紙データのPDF化サービスなど)も活用するとよいでしょう。
ステップ⑤:導入・教育
PLMの構築とデータ移行が完了したら、いよいよ現場への導入です。現場に使い方やルール、エラー時の対応などを説明・教育しながら進めます。使い方がわからないなど、システム化から置いていかれるメンバーが出ないような配慮が必要です。特に、長年同じやり方で業務をしてきたメンバーほど、業務が大きく変わる点を受け入れにくいので、細心の注意を払います。
ステップ⑥:運用と改善
PLM導入の完了で終わりではなく、実際の運用と改善のプロセスが重要です(→原則5)。部門内や部門間でユースケースやノウハウを共有する勉強会、エラーや改善点を協議する検討会などを定期的に開催するのも一つの方法です。
ステップ⑦:次のフェーズへ段階的に拡大する
スモールスタートで始めたPLM導入を、次の段階へ拡大していきます。最初の部門で得られた知見や、ブラッシュアップした設定を横展開すれば、次の部門への導入はより早く、より確実に進められます。対象部門を広げるのか、機能を追加するのか、自社の課題の優先順位に沿って、段階的にシステム化の範囲を広げていきましょう。
5. まとめ:導入は「入れて終わり」ではない
PLM導入の失敗は、製品選定ではなく進め方に原因があることがほとんどです。よくある失敗事例から学び、成功確率を高める進め方を採用することが大切です。
本記事で示した5つの原則——小さく始める、現場を主役にする、データ移行を計画に組み込む、要件に優先順位をつける、運用・定着まで設計する——は、いずれも失敗パターンの裏返しです。そして最も大切なのは、導入はゴールではなくスタートだ、という認識です。自社に合うPLMを作り上げられるかどうかは、導入後にどれだけ改善のサイクルを回せるかにかかっています。
- 費用の考え方とスモールスタート →「PLM導入の費用感とスモールスタート」
- そもそも何を選ぶか →「製造業システムの選び方」
- PLMの詳細 →「PLMとは」