2026-07-23 ・ 導入の現実

ローコード/オープンなPLMという選択肢

PLMにはエコシステム型だけでなく、土台の上に自社で作り込む「オープンプラットフォーム型」という系譜があります。ローコードとは何か、自由度の功罪、どんな企業に向くかを、特定製品を推さず中立に整理します。

PLMというと、多機能な大規模スイート製品をイメージするかもしれません。しかし、PLMの設計思想は一つではなく、「土台を提供し、自社で作り込む」タイプの製品もあります。ローコードやオープンアーキテクチャを特徴とするこの類型は、中堅・中小の現実に合う場合があります。本記事では、この選択肢がどういうもので、どんな企業に向き、どんな企業には向かないのかを、中立に整理します。

1. PLMには「もう一つの系譜」がある — オープンプラットフォーム型とは

PLMの製品には大きく2つのタイプがあり、エコシステム型(標準に寄せる×自社CADと一体)とオープンプラットフォーム型(作り込む×CAD中立)です。前者はCADやシミュレーションなど、特定のソフトとの相性が良く、エコシステムの一環としてPLMがある位置づけになっています。エコシステムを通してできることの多くが標準機能として準備されており、ユーザーはその中から使いたいものを選ぶ形です。一方で、後者は特定のソフトとの相性は中立でどのソフトともある程度のことができる位置づけになっており、既存システムを置き換えるよりもつなぐことを得意としています。言わば、既存システムの土台となるようなシステムであり、この上の自社の業務プロセスを作り込むことが前提になっています。

どちらのタイプが優れているという話ではなく、それぞれの設計思想が違うだけで合う企業と合わない企業が分かれてきます。この記事では後者を深掘りして、PLMの選択肢として認識してもらえればと思います(2タイプの整理と各製品の位置づけは「主要PLM製品の中立比較」で解説しています)。

2. 「ローコード」とは — 何が「ロー」なのか

オープンプラットフォーム型を説明する上でよく使われる「ローコード」ですが、日本語に直訳すると「低いコード」、つまり「コードが少ない」となります。コードの代わりにクリックやドラッグ&ドロップなど、直観的な作業で開発できる部分が用意されているので、エンジニアだけでなく設定方法を理解している非エンジニアにも開発できる箇所があります。要するに、プログラムのコードを書く量が少なく、コード(プログラミング)の専門家以外にも開発ができるようにすそ野を広げた開発手法ということです。

具体的には、日報や週報など、フォーマットのある程度決まっているシステム画面であれば、各項目の名前を決め、入力制限(チェックボックスやラジオボックス、日付入力など)を選び、必須項目かどうかを設定するだけで、入力画面を完成させることができます。PLM製品によってどの画面がローコードで開発できるかは異なりますが、基本的な考え方として、データモデルやワークフローを設定を通して組み上げていきます。

ローコードと混同されやすい開発手法として、スクラッチ開発があります。スクラッチ開発も自分たちで作り上げるという点では似ているかもしれませんが、スクラッチ開発の場合はゼロから自分達で作り上げることなので基本的にはコードを大量に書く必要があり、ローコードとは真逆です。造語ですが、「ハイコード」と呼んでも良いでしょう。

また、カスタマイズできるという意味では、PLMの1タイプである「スイート型」でもカスタマイズは可能です。しかし、スイート型でのカスタマイズは、標準機能の外側に追加開発する手法が採用されるのが一般的です。すでにある標準機能はいろんな会社が共通で使う内容なのでカスタマイズは難しく、外部に作らないといけない分、高コストとバージョンアップ障害という問題に直面します。ローコードのカスタマイズは内側で組み替えることを可能とする点で大きく違います。

3. 何がうれしいのか — オープンプラットフォーム型の強み

ローコードというオープンプラットフォーム型を説明する上で欠かせない言葉を理解したので、次はオープンプラットフォーム型の強みを見ていきましょう。

自社の業務プロセスに合わせられる

オープンプラットフォーム型のPLMの特徴として既存システムを置き換えるのではなくつなげる役割があります。自社の業務プロセスに合わせてPLMと既存システムをつなぎ合わせることで、業務プロセスに合わせた運用が可能です。ローコードを活用したカスタマイズも可能なので、業務プロセスに合わせてPLMを柔軟に設定することができます。現場をシステムに合わせるのではないので、現場からの反発などの痛みは比較的小さいです。

必要な機能だけで小さく始めて、段階的に育てられる

オープンプラットフォーム型のPLMは土台となるシステムを提供してくれる一方で、様々な機能は自社である程度作りこむことを前提にしています。もちろん、標準機能として備わっている機能が多い製品もありますが、どの機能を使うか、どんな機能を作るかは導入企業に委ねられているケースが多いです。必要な機能だけをまずは使って、段階的に機能を増やしていくというスモールスタートからのスケールアップとかなり相性が良いです(スモールスタートの考え方は「PLM導入の費用感とスモールスタート」で解説しています)。

既存のCAD・ERP・生産管理を置き換えずにつなげる

複数のCADや管理システムを組み合わせて使っている企業にとって、PLM導入の観点で見ると、現況がエコシステムに属していないのでPLMのエコシステム型とは相性が悪いです。仮にエコシステム型のPLMを導入しようとすると、PLMだけでなくCADや既存システムも置き換えざるを得ないという状況になりやすいです。コストやリスクを考えると、大規模な置き換えは避けたいので、複数のCADやシステムとの立場が中立的で、つなげやすいオープンプラットフォーム型はかなり魅力的でしょう。既存システムを置き換える必要が無いのは現場にとっても負担が少ないです。

サブスクリプション中心で初期投資を抑えやすい

オープンプラットフォーム型のPLMは自社に必要な機能を使う形なので企業によって使っている機能に大きなばらつきがあります。一律料金を設定しにくいという提供企業側の悩みもあり、基本的にはユーザー数×利用している機能分に応じてサブスクリプションのような形で利用料金が発生することが一般的です。初期コストや余計な機能に対する費用を抑えやすいです。ただ、運用費用などは別途発生してくるので、コスト全体を把握するのはやや難しいとも言えます。

中堅・中小企業との相性が良い

オープンプラットフォーム型のPLMは自由度が高いと言えるので、大企業のようにいろんな部門でいろんな機能が必要なケースにも、中堅・中小企業のように限られた機能だけ必要なケースにも対応ができます。PLM導入のプロセスが進む中で、必要としていた機能とPLMで実装された機能に違いがあれば、素早く修正がしやすいです。意思決定の早い中堅・中小企業にとって、柔軟なオープンプラットフォーム型のPLMは相性が良いでしょう(中堅・中小ならではの事情は「中堅・中小製造業のシステム導入の現実」で解説しています)。

4. 自由度の「功罪」 — 正直な注意点

オープンプラットフォーム型のPLMの強みを見てきましたが、しっかりと弱み、注意すべき点も見ていきましょう。

作り込みを設計・維持する「主体性」が自社に要る

オープンプラットフォーム型は土台となるプラットフォームであり自社に合わせて作りこめるのが良い点である一方で、自社に合わせて作りこむだけの主体性を必要とします。どんな作りこみをするのか、どんな運用をするのかなど、社内体制やベンダーとの協力体制の構築が不可欠です。自社のことをよくわかっていて、現場とのコミュニケーションを取れるメンバーの関与が必要となるので、特に中堅・中小企業にとって、人材の確保は問題になるかもしれません。ベンダーに丸投げでは自社に合うPLMには育てられませんので要注意です。

ローコードでも設計思想・データモデルの理解は必要である

オープンプラットフォーム型はローコードでの開発が可能になりますが、すぐに誰もが設定できるわけではありません。PLM製品の設計思想やデータモデルに対する理解が必要になります。例えば、ある画面の変更は表面上は一部分の変更に見えるが、裏側ではデータベースと紐づき、広範な影響範囲を持つ可能性があります。1つの設定変更がどこまで影響しうるのかを把握、想像できるようになるには、ある程度の学習コストが必要になります。設定変更によるデータの消失は絶対に避けなければなりません。

ガバナンス無き作り込みになることもある

オープンプラットフォーム型は自社で必要な分だけ機能をつけることができる一方で、際限なく細かい機能などを追加することも技術的には可能になっています。本当に必要な機能なのか、PLMに搭載すべきなのかを判断するルール、ガバナンスが無いと、結局複雑化しすぎて使いづらいPLMになってしまいます。作りこみが可能な分、PLMに対する姿勢を維持するためのルール作りは導入段階で必須になります。運用担当が変わってもガバナンスが利くように明文化し、周知しておくことが大切です。

人材・パートナー依存になりがちである

主体性と似ている部分ですが、開発、導入、運用において引っ張ってくれる人材が必要になります。社内で見つけるのが良いですが、どうしても見つけられない場合には外部パートナーに頼るしかありません。PLMの運用に大きく関与する人材になるので、PLM導入の成否に大きな影響を与えるので慎重に選定する必要があるでしょう。PLMの自由度の高さを使いこなすだけの人材、体制があってこそ、オープンプラットフォーム型の強みを活かせることになります。

5. どんな企業に向くか/向かないか

強みと弱みを見てきましたので、オープンプラットフォーム型への向き不向きを見ていきましょう。

向く企業

  • 複数CAD・既存システムが混在している
  • 業務プロセスにこだわりがある
  • 小さく始めて育てたい(スモールスタート)
  • 作り込みを担う人材またはパートナーを確保できる

向かない企業(エコシステム型やスイート型が合う)

  • 単一CADで設計環境が固まっている
  • 標準機能で早く立ち上げたい
  • 専任人材がおらず運用は極力シンプルにしたい

オープンプラットフォーム型への向き不向きを見てきましたが、どちらのタイプのPLMがより優れているというわけではなく、あくまでも企業との相性の話です。自社の現状と照らし合わせてPLMを選んでほしいです。

6. まとめ:選択肢を知ったうえで比べる

PLM製品には2つの型があり、エコシステム型(標準に寄せる×自社CADと一体)とオープンプラットフォーム型(作り込む×CAD中立)に大別されます。後者の存在も理解していると、PLM製品の比較の視野が広がります。自社の現状に合わせてどちらのタイプとの相性が良いかを判断した上で検討を進め、最終判断はデモ・PoC を使った後にしてほしいです。

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